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【ガリレオ】聖女の救済の最強考察。ドラマがひどいと言われる理由とは

聖女の救済
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おもちくん
おもちくん

もちもちおもちのおもち君だよ。

今日は東野圭吾さんの「聖女の救済」の考察だよ。

おもちちゃん
おもちちゃん

お腹空いたよー。救済してー!

おもちくん
おもちくん

救済の使いどころが軽い・・・。

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「聖女の救済」について

2008年10月に文藝春秋から、『ガリレオの苦悩』と同時に出版されたガリレオシリーズ第5弾の推理小説。

ガリレオシリーズは福山雅治主演のドラマや映画にもなって有名だよね。

「聖女の救済」は2013年6月にドラマの最終章として映像化されたよ。

あらすじ

IT会社の社長、真柴義孝は自宅で死んだ。死因は毒物(亜ヒ酸)による中毒死だった。

他殺の可能性が高いとして警視庁捜査一課の刑事、草薙と後輩の内海が捜査にあたることになる。

事件の日、義孝の妻の綾音は実家の北海道に帰省中で、発見者は綾音が主催するパッチワーク教室の講師である若山宏美だった。

内海は些細なことから妻の綾音を疑うようになるが、綾音に一目惚れしてしまった草薙と意見が対立してしまう。

しかし綾音は事件当時北海道にいる。この鉄壁のアリバイを崩すために、離れているところから毒を仕込む方法はないかと考え、物理学者の湯川学准教授に相談することに。

主要な登場人物

・真柴綾音:パッチワーク作家。教室『アンズハウス』を主宰。

・真柴義孝:真柴綾音の夫。事件の被害者。IT関連会社社長。

・若山宏美:真柴綾音の弟子。『アンズハウス』の講師。事件の第一発見者。

・猪飼達彦:弁護士。真柴義孝の会社の顧問弁護士。

・元岡佐貴子:真柴綾音の友人。北海道に住んでいる。

・津久井潤子:故人。絵本作家。

・湯川学:帝都大学物理学准教授。草薙とは大学時代からの友人。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。

・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。草薙の後輩。

・間宮:警視庁捜査一課の係長。警部。草薙たちの上司。

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「聖女の救済」の考察

ここからは内容の考察だよ。トリックのネタバレは最後のほうに書くけど、それ以外にもトリックのヒントになるような考察をしている部分があるから未読の人は注意してね。

最初から犯人がわかっている

開始数ページで伏線、動機、犯人が全て語られているんだ。

まず義孝は結婚は子供を作って育てるためのものであって子供を作ることが最重要事項となっている。

結婚して1年経っても子供に恵まれない場合は離婚する、というのが義孝の考えだった。

そして義孝と綾音の間には子供ができなかった。

義孝から別れ話をされるところから物語は始まる。

綾音が密に隠し持っていた白い粉を思い浮かべ、それを使うしかないと思ったり、心の中で義孝に「死んでください」と言ったりする。

もうこの段階で綾音は白い粉を使って夫を殺すという計画を立てていることがわかるんだ。

冒頭のこのシーン、実はこの数ページが全て伏線。何の伏線かはネタバレになるから後のほうで書くね。

内海薫の鋭い視点

事件現場を見た時、内海は流しにあるシャンパングラスに目をとめた。

カップボードに空いている場所があって、本来はそこにしまってあるものだと想像を働かせる。

このことから数日前までの間にここでホームパーティーがあって、それに使われたのではないかと思うんだけど、そこまでは誰でも気づくところだよね。

妻の綾音は事件の時、北海道の実家に帰っているんだけど期間は決まっていなかった。義孝は「しばらくは帰らない」と思っている。

家を長く空けるかもしれないのに、シャンパングラスを片付けずに出るのはおかしいと内海は思うんだ。逆を言うと、すぐに帰ってくることを本人はわかっていたから洗わずに置いておいた、という考えもできるわけなんだ。

自分が実家にいるあいだに義孝は死ぬからすぐ戻ることになる、と。

こういう些細なことが綾音を疑う根拠になる。

第一発見者の若山宏美は、現場検証をしている時には涙を堪えていた。

彼女を家まで送り届けてから少しして内海は彼女に電話をかけている。

その目的は泣いているかどうかを確かめるためだったんだ。

人の死を目の前にしたらどんな人間でもショックで涙を流してしまう可能性があるけど、そこから離れて時間が経った時に泣いているというのは、亡くなった人と親しい間柄だった可能性があるからなんだ。

そして内海の想像通り、若山宏美は自宅で泣いていた。

綾音は夫を殺害した。しかし夫が死んだ時には綾音は北海道の実家にいてアリバイがある。

一方、綾音の弟子である宏美は孝義が約束の時間になっても電話に出ないことが気になり、綾音から預けられた自宅の鍵を使い事件の第一発見者となる。

宏美は義孝と不倫していて、内海はそのことに勘づいていた。

毒はどこに仕掛けられていたのか

義孝の死因は亜ヒ酸による中毒死。これはすぐに判明する。

問題はこの毒がどこに仕掛けられていたのかだった。

義孝はコーヒーを飲んで倒れたため、コーヒーの粉やフィルター、コーヒーを入れるための水、ケトルなどが調べられ、毒が付着していたのがケトルだということが判明する。

つまりケトルの中か、水に毒が仕込まれていたことになる。

ケトルは色々と実験して調べた結果違うということがわかって、残るは水のみだった。

義孝は健康志向で水はペットボトルの水しか飲まない人間だった。

しかしペットボトルからは毒は検出できなかった。

となると残るのは水道水だ。

義孝の家は水道には普通に水道水が出る蛇口と、浄水器があった。

詳しく調べた結果、毒が仕込まれていたのはどうやら浄水器のほうだった。

でも浄水器は最近動かしたり内部を触ったりした形跡が全くない。

毒をいつどんな方法で仕込んだか、これがこの物語の最大の謎となる。

草薙の恋心

草薙は最初に綾音を見た時から心を惹かれている。

捜査中も綾音のことが気になり、犯人は綾音だと思っている内海の推理に対し難癖をつける。

でも、草薙は私情だけで動くような刑事ではない。

捜査が進む中で、綾音が犯人であるという見方が強くなり始めると、そうであってほしくないという感情と、それでも真実を見つけなければならないという感情がぶつかって苦しむ。

「聖女の救済」はトリックの斬新さももちろん魅力の1つなんだけど、草薙の心の揺れも物語の大事な要素の1つであり魅力なんだ。

この恋心については、友人である湯川があることを述べている。

学生時代、草薙は死にそうな子猫を拾って世話をしていた。友人に、どうせ死ぬのに何で世話なんてするんだと言われても、それがどうしたと言って世話を続けていた、という話だ。

その時の子猫を見る目で綾音のことを見ている、と湯川は言うんだ。

草薙は今にも死にそうで必死に生きようとしている子猫を見るように綾音を見ていた。

放っておくことができない、これが草薙の恋心の真相なんだ。

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ネタバレあり「聖女の救済」のタイトルの意味

ここからは「聖女の救済」のトリックとその背景について書いていくよ。

綾音の親友

草薙は綾音を犯人にしたくない気持ちと、綾音には鉄壁のアリバイがあることから内海とは違う路線で操作を進める。

義孝の昔の恋人について聞き込みをする内に、1人の女性の存在が浮かび上がるんだ。

津久井潤子。義孝が綾音の前に付き合っていた女性だ。

さらに、潤子と綾音は海外留学している時に知り合った友達だったんだ。

2人はかなり仲が良くて親友とも呼べる存在だった。

潤子は仕事の関係で知り合った義孝のことを綾音に紹介している。

綾音は潤子と義孝が付き合っていることを知らなかった。

綾音は義孝に惹かれ交際をスタート。

その時期とそう離れていない時期に義孝は自分のライフプランのリミットだと潤子に告げる。

1年間子供ができないなら別れる、というプランだ。

潤子は別れを切り出され、そして綾音と義孝が付き合っていることを悟ったあと自殺を遂げるんだ。

自殺をする前、潤子は綾音宛に宅急便で亜ヒ酸を送っている。

何故亜ヒ酸を送ったのか。

実は綾音は不妊症で子供ができない体なんだ。

そのことを潤子には話していた。

だから潤子は、義孝と付き合っている綾音に向けて警告の意味で亜ヒ酸を送ったんだ。

付き合っても子供ができないなら自分のように捨てられる、という警告だ。

その亜ヒ酸をどう使うかは綾音に委ねられていた。

冒頭数ページの伏線

綾音には相反する2つの気持ちがあった。

1つは義孝を愛しているという気持ち。

もう1つは義孝を許せないと憎む気持ち。

自分勝手な都合で潤子を傷つけ自殺に追いやった義孝のことを憎む気持ちも相当強かったんだ。

そして綾音は考える。

義孝がその自分勝手なライフプランを曲げずに離婚するというのなら、殺してしまおうと。

綾音は、潤子のことがあって考え方を改めてくれるか、自分のことを愛してくれて子供のことは諦めてくれるか、そのどちらかを選んでくれたら許そうとしていた。

でも結果は違った。

結婚して1年経っても子供に恵まれない場合は離婚する、というのが義孝の考えだった。そして義孝と綾音の間には子供ができなかった。義孝から別れ話をされるところから物語は始まる。綾音が密に隠し持っていた白い粉を思い浮かべ、それを使うしかないと思ったり、心の中で義孝に「死んでください」と言ったりする。

これはこの記事の最初のほうに書いた、物語冒頭の部分の要約。

このシーン、最初に読んだ時は別れ話をされている時だと思わされるんだけど、実はこれ、1年前の回想なんだ。

つまり、綾音は事件から1年前に計画を立てているんだ。

そして仕掛けを作ったのも事件から1年程前なんだ。

トリックの真相

綾音は浄水器のフィルター交換の時にホースとのつなぎ目あたりに亜ヒ酸を忍ばせる。

それから先は、誰にも浄水器を使わせないようにする。

というシンプルなのに不可能に近いトリックだったんだ。

1年間誰にも浄水器を使わせないようにする、これってほとんど不可能だよね。

いつ誰が使うかなんてわからない。

特に家の主の義孝や月に1~2回家に来る宏美は浄水器の水を出す可能性がある。

綾音はそれをさせないために、義孝が休みの日は常にキッチンを見張るためにリビングでパッチワークをしていた。

義孝にはキッチンに入らせないように料理も全て作るし、宏美には手伝わせることはあってもキッチンに1人で入るようなことは頼まなかった。

それに義孝は健康志向で水はペットボトルのものしか使用しない。

1年間、綾音は亜ヒ酸を出さないように監視し続けたんだ。

それは義孝を殺さないでいる「救済」の期間とも言える。

彼の考えが変われば毒は使わずに計画は終わる(浄水器の水を出しっぱなしにするなどして毒を流してしまえば良い)

もし考えが変わらず離婚を切り出されれば、その時は家を留守にして浄水器を使わせるように仕向ける。

義孝を生かすも殺すも綾音次第。

綾音にとっての結婚生活は死刑執行までの救済期間だったんだ。

トリックの不確実さ

浄水器を使わせないように生活するのも大変だことだけど、それより危ないのは狙った時に狙った人が浄水器を使うかどうかだ。

綾音は実家にしばらく帰ると言い家を空ける。

何かあった時のためにと鍵も宏美に預ける。

当然自分がいない間には義孝と宏美が家で会うだろうと予測を立てる。

ここまではさほど難しくはない。

問題は宏美が浄水器を使うかもしれない、ってところだ。

綾音は家を空ける前にわざとペットボトルの水をいつもより少なめにしておいた。

ペットボトルの水がなければ義孝は浄水器を使うだろうと思ったからだ。

でもそれは宏美が使う可能性もある。

そこで綾音は普段コーヒーを淹れる時、ペットボトルの水を使わずに水道水の温水を使っていることを宏美に話している。温水から沸かすほうが早いし経済的だ、というんだ。

これで宏美が家に来てもコーヒーを淹れる時、水道水の温水を使うだろうと予測したんだ。

ただしこれには条件がある。

義孝もキッチンに一緒に入れば水道水を使っていることがバレてしまうから、ペットボトルの水がない場合、妥協して浄水器を使う可能性がある。

このトリックは確実に義孝だけを狙い撃ちできるとは言えない不確実な方法なんだ。

綾音がそれを考えなかったわけはないと思う。

最悪の場合、宏美も毒入りコーヒーを飲んでしまうことも想定していたのかもしれない。

それならまだいいけど、先に宏美が毒入りコーヒーを飲んで倒れたら、義孝は飲まずに警察に通報しただろうね。

この不確実さを知りながら計画を遂行したとするなら、もしかすると天罰が誰に下るかを試していたのかもしれないね。

ガリレオ先生の名言

湯川がトリックに気づいた時の会話がとっても印象に残ってるんだ。

「ただし、虚数解だ」
「虚数解?」
「理論的には考えられるが、現実にはありえない、という意味だ。北海道にいる夫人が東京にいる夫に毒を飲ませる方法が一つだけある。だけどそれを実行した可能性は、限りなくゼロに近い。わかるかい?トリックは可能だが、実行することは不可能だということなんだ」

引用元:聖女の救済 P287/東野圭吾 より

虚数っていうのは数学で習うものなんだけど、実際には存在しない実線のグラフ上でも表せない想像上の数のことなんだ。

トリックは想像上では存在するけど、実際にはほぼ遂行不可能。そのことを虚数解という風に湯川は例えるんだ。例え方が的確でかつかっこいい!

そしてトリックと犯人がわかった後のセリフ、

ふつうの人間は、どうやって人を殺すかに腐心し、労力を使う。だが今回の犯人は逆だ。殺さないことに全精力を傾けた。こんな犯人はいない。

引用元:聖女の救済 P392/東野圭吾 より

たしかにーって思った。

仕掛けは最初に作って発動させるのは1年後。

しかも仕掛けの発動は自分が家を空ける、というだけのもの。

救済が終わった瞬間=家を出る、っていう構図が見放した瞬間のさみしいとも諦めともとれる心情とマッチしていて、タイトルのつけ方が秀逸だなーって感じたんだよね。

原作とドラマの違い

「聖女の救済」って検索すると、「聖女の救済 ドラマ ひどい」って検索予測が出てくるほどドラマ版は酷評だったんだよね。

その1番の理由が、ドラマでは草薙が登場しないからなんだ。

湯川と綾音が知り合いっていう設定になってるしね。

「聖女の救済」のいいところってトリックの斬新さもあるけど、草薙が犯人に恋をしてしまったっていうところとか、その心境の変化だったり、その恋がどういうものなのかっていう部分がかなり重要なポイントだと思うんだよね。

それによって内海と対立するところとか、結果的に綾音を犯人にしたくないがための別路線での捜査が真実に繋がったり。

そういう部分が一切なくてドラマではトリックだけに集中してる印象を受けるんだよね。

原作ファンから酷評だった理由は、原作の良さを消した脚本にあったんだ。

その他にも、義孝が浮気をしている設定も昔の恋人、潤子が自殺しているという設定もなしになってるんだ。

原作では親友だった潤子の死が動機に大きく関わっているし、毒の入手経路も潤子だから、綾音の動機に関するほとんど全てがドラマではなくされているんだよね。

原作で結構重要な役割のパッチワークすら出てこないんだ。

んー、たしかにこれじゃ原作ファンは怒るだろうな。

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まとめ

ガリレオ先生の言う「虚数解」は今までにないトリックだし、ミステリー要素だけじゃなく人間の心理描写や恋心、夫婦のあり方なんかも考えさせられる「聖女の救済」の考察はどうだったかな?

東野圭吾さんのトリックっていつも驚かされるよね。

本格ミステリーとは言えないけど、とにかく面白いトリックだったし、ほとんど完全犯罪の謎を解いていく過程と2人の刑事のやりとりもとっても楽しめた部分だったよ。

犯人に恋をしても、そのことで完全に偏った見方をするような刑事じゃないって思う湯川の草薙に対するある種の信頼があるところもよかったなーって思ったんだ。

僕はこの本を3回読んでるんだ。トリックがわかってからもう1度読み直すと伏線にも気づけて面白いよ。

それじゃまたねー

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