もちもちおもちーのおもち君だよ。
4時間ノンストップで読み終えた「黒冷水」の感想を書くね!
4時間もあったらたくさんお昼寝できるね!キャッキャッ
Xのフォロワーさんに「鬱小説」としておすすめしてもらったうちの1つが「黒冷水」なんだ。
今日は「黒冷水」の感想と考察をネタバレ少なめで書いたよ。
黒冷水の簡単なあらすじ
黒冷水は、羽田圭介のデビュー作。当時まだ17歳で堀田あけみ、綿矢りさ、に続く3人目の最年少での文藝賞受賞を果たした。
2015年「スクラップ・アンド・ビルド」で、お笑い芸人の又吉直樹の「花火」と共に芥川賞を受賞し、メディアへの出演が多くなったので、羽田圭介を知っている人は多い。
兄の部屋を執拗にあさり続ける弟と、そんな弟に報復する兄の物語。
憎しみ合う二人の陰湿な喧嘩はどんどんエスカレートしていき、ついには殺意まで芽生えてしまう。
「黒冷水」の感想と考察(ネタバレ少なめ)
まずこの本は一言で言って「気持ち悪い」。
男の兄弟喧嘩と言えば、口論の次に殴り合い、みたいなのを想像するんだけどこの小説の2人の喧嘩は実に陰湿。
弟は兄のいない時間を狙って兄の部屋の机や棚を漁っていく。
弟は自分の漁りがプロ級だと思っていて、いかに兄にバレないように目的のものを見つけるかということに執念を燃やしているんだ。
ちなみに目的のものっていうのは人に見られたくない本や動画のこと。
一方兄は、弟が自分の部屋を漁っていることを知っている。
弟はプロの漁り屋だと自負しているけど、兄からしてみれば詰めの甘いおふざけとしか思えないんだ。
兄は漁られることに嫌悪感を覚えるけど弟本人に直接言ったりしない。
かわりに部屋に罠をしかけて報復しようとするんだ。
この本はこうした陰湿な兄弟喧嘩がどんどんエスカレートしていく様を描いている。
3人称視点であるものの、それぞれの心情や行動がかなりリアルに描かれている。それでいて読者はおそらく、兄=まとも、弟=おかしい、という印象に持っていかれることになる。
このあたりは著者がうまくミスリードしているなと思った。
陰湿な兄弟喧嘩の話ではあるけど、とてもスピーディーな展開とドキドキ感でどんどんページは進んでいく。描かれているのは不愉快なことだけど、どこかコメディーチックなんだ。
それが読み進めていくうちにだんだんと雰囲気が重くなってくる。
この話の移り変わりの様子はストーカーに似ている。
最初はただ好意を寄せていた相手に勝手に嫉妬し始めて、情報を集めるために周辺を探る。それがエスカレートしていきプライベートの情報を全て把握しようとし、最後は本人に警告の嫌がらせ。手に入らないとわかると相手を殺そうとする。
このストーカーの一連の流れに、見事にはまっているんだ。
ネチネチと相手を徐々に追い込んでいく様子が「気持ち悪い」の正体なんだ。
相性の良い人と悪い人の特徴
血の繋がった、そして同じ家庭に育った兄弟、姉妹がお互いを恨む、ってどれぐらいあることなのかな。
親の介護をめぐってのトラブル、遺産相続、親戚付き合い、大人になればこういったことで兄弟間の仲が悪くなるというのはよくあることだと思う。
でも「黒冷水」の2人はまだ自立していない学生。
ここで僕と僕の妹の関係性について考えてみた。箇条書きにすると、
・幼い頃から仲が良かった
・喧嘩はしても嫌がらせなどはしたことがない
・性格、容姿、どちらも全く似ていない
・思春期に親のせいでどちらも大変な目にあった
・お互いの性格、特技、などを尊敬しあっていた
こんな感じだ。これを言い換えると、仲の良い兄弟・姉妹は、
・元々のお互いの性格による先天的なもの
・衝突はしてもあとに引きずらない(性格)
・タイプが違う
・同じ境遇で同じ試練を乗り越える
・お互いが魅力的な部分を持ち合わせている
こんな特徴を持つと言える。
兄弟姉妹に限らずこの条件が揃っていれば大抵の2者の人間関係は良好でいられる可能性が高い。
ということは、この逆が揃ってしまうと仲が悪い2人というのが出来上がる可能性が高くなるんじゃないだろうか。今のを逆にすると、
・そもそも生まれた時から性格が合わない
・根にもつタイプ
・2人が同じようなタイプ
・同じ苦労を一緒に乗り越えたことがない
・お互いに魅力を感じられない
こんな感じになる。これは「同族嫌悪」だよね。
自分の嫌な部分、コンプレックス、欠点、それを相手を通して自分を見ているように感じるのが「同族嫌悪」。
「黒冷水」の2人は全く違うタイプの人間に見えるけど、本質的なところが似ているからこそ恨みあっているんだろうなあ。
失って気づく大切さ
僕と妹は元々仲が良いけど、お互い実家を出て離れて住むようになってから仲の良さがより深まった。
仲の良かった友達が突然死んだ時は、いかにその友達が自分にとって大事な存在だったか身に染みた。
そういう経験は誰しもあると思う。
人間は手にしている時はそのもののありがたみや価値を軽視してしまう。人の関係だけじゃなく物もそうだよね。
距離が近すぎる、というのは相手の嫌な部分も自然と感じてしまうし、「居る」というのが当たり前になってしまう。
「失う」という想像をあまりしない。
それが相手が病気になったり、どこか遠くへ行ってしまうとわかった時にようやく、相手を失うということはどういうことなのかを考えるようになる。
そういう想像をし始めた頃にはもう時すでに遅し、となっている場合が多いんだけどね。
自分にとって何が大事なのかを考え、普段から感謝を持って接することでもしもの時に後悔を感じることも少なくなると思うんだ。
「黒冷水」の2人はどうなるのか。
兄は恨みを増幅させバッドエンドを迎えるのか、それとも弟と和解するのか。
それは物語の終盤で描かれているから楽しみに読んでもらいたいな。
まとめ
全体的に暗めの話ではあるんだけど、テンポよく進んでいく軽快さと読みやすさが暗さや重さを軽減しているように感じた。
後半にいくにつれてだんだん重さが増してくるのと、最後のオチが鬱だなーと思ったんだけど、今まで読んできた鬱小説の中では比較的軽めな感じだったよ。
「黒冷水」は兄弟2人の陰湿な兄弟喧嘩を描いた作品で、とくに思春期の人や男兄弟がいる人には共感できる部分もあると思う。
でも現実ではあまりあり得ないことがどんどん起こっていくから、そのあたりは小説らしいね。
暗すぎる話が苦手な人でも読めるし、とにかく読みやすいから難しい小説が苦手な人にもおすすめできる本だよ。
そして「黒冷水」を読んで面白かったと思った人は芥川賞受賞作の「スクラップ・アンド・ビルド」もおすすめしたいし、こないだ記事を書いた米澤穂信さんの「ボトルネック」も読みやすい鬱小説として是非読んでみてもらいたいな。
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