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貴志祐介「青の炎」をレビュー。悲しく切ない17歳の完全犯罪。青春と混沌が交わる倒叙ミステリーの傑作

貴志祐介「青の炎」考察レビュー
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家族と聞いてみんなはどんなイメージを持つ?

温かい、かけがいのない存在、血の繋がり、愛

窮屈、鬱陶しい、しがらみ、恨み・・・

今の世の中、家族と言っても色んな形があるよね。

今回は、ちょっと変わった家族と完全犯罪がテーマの青春ミステリー「青の炎」のレビューをするよ。

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「青の炎」について

1999年10月25日に角川書店から発売された貴志祐介のミステリー小説。

2003年には「蛇にピアス」や「Wの悲劇」を手かげている蜷川幸雄監督のもと、主演・二宮和也・ヒロイン役に松浦亜弥で映画化されたよ。

映画の興行収入は6.4億円で少なかったみたいだけど、映画のポスターとかレンタルショップでよく見かけていたからてっきりすごく売れてるのかと思った。僕はこの映画好きだよ。

貴志祐介について

1959年1月3日生まれ、大阪府大阪市出身の小説家。

代表作は「黒い家」「青の炎」「悪の教典」「新世界より」など。

保険会社に勤めながら小説を執筆、投稿し、1986年にハヤカワ・SFコンテストで短編「凍った嘴」が佳作を受賞(岸祐介名義)。

当初はSF中心に執筆していたんだけどSFでは食べていけないと、その後ホラーやミステリーを書き始める。

将棋愛好家で二、三段ほどの実力があると言われていて小説家としては有数の実力者。

そんな趣味の将棋をベースにした特殊空間ゲーム小説「ダークゾーン」では第23回将棋ペンクラブ大賞特別賞を受賞した。

「青の炎」の簡単なあらすじ

主人公の秀一は母親と妹と3人で暮らしていた。平和だった家族。

そんな家族の元に母が10年前に離婚した男・曾根が現れる。

曾根は横暴で母親や妹を守らなければと秀一は完全犯罪を計画する。

「青の炎」の考察レビュー

話の序盤から家庭内での不穏な空気と、どこか普通の高校生とは違う主人公の存在が強調されている。

母親が10年前に再婚してすぐに別れた曾根という男は、仕事もせず毎日酒ばかり飲み、暴言を吐く駄目男で、働く気もなく主人公・秀一の家に居座っている。

そんな駄目男に酒を買ったりしている母親に苛立つ秀一だけど、母親も見捨てられないだけで早く出ていってもらいたいと思っているのだが・・・。

まずこの家庭内の状況が、僕の高校時代にそっくりで(僕の父は酒も飲まないし暴力もなかったが)僕も秀一と同じように「別れてるんだったらさっさと追い出せ」という言葉を母にかけていたことを思い出した。

とにかく秀一は曾根を追い出そうと知り合いの弁護士に頼んでみたりするんだけど、結局解決には至らず、追い出せないのなら殺すしかないと思うようになる。

曾根こそが幸せであるはずの家庭を壊している原因だからだ。

「青の炎」には

こんなにも切ない殺人者が、かつていただろうか。17才の少年が望んだもの。それは、平凡な家庭とありふれた愛。ただ、それだけだった。

17歳の完全犯罪

っていうキャッチコピーがついている。

僕はこの本を読みながら、本当に秀一は家族のためだけに殺人を計画したのだろうか?そこには自分の中にある怒りを正当化するためにそう思い込もうとしているのではないだろうか?と秀一を通して高校生の自分に問いかけてみた。

もし曾根が自分にだけ暴力を振るったりするだけで、他の家族には無害な存在だったとしたら?

そしたらきっと曾根を殺すという考えには至らなかっただろう。

自分が家から出るか、出られるようになるまで我慢するか、どちらかを選ぶ。

逆に曾根が自分には優しいけど家族の他の人には酷いことをするとしたら?

これはきっと殺人という結論になる。

大事な人が苦しんだり傷つくのを見ているぐらいなら、自分が犠牲になったほうがましだ。

きっと秀一もそういう人間だと思うし、それだけ母や妹のことが大事であることがわかる。

以上のことから完全犯罪でなければならない理由は簡単にわかる。

もし自分が殺人を犯し捕まれば、残された家族は殺人者の家族として生涯を過ごさなければならない。それは曾根に苦しめられる生活よりも、もっと残酷な世界だ。

秀一がただ単に優等生だから完全犯罪を計画しようと思ったわけでも怒りの正当化でもないということは明らかだと言える。

ただもし秀一が高校生ではなく大人だったとしたら話は変わってたと思う。

大人びた行動をとっても、頭が良くても、高校生という立場では結局何もできない。

お金がなければ最低18歳まではバイトをするしかないし、借りることもできない。

警察や弁護士に頼んでも、行き着く先は母親の意志であって、追い出すことをためらっている母親の意志が変わらない限り第三者は動いてはくれない。

高校生だからこそ、もう殺すしかないという結論に到達するんだよね。

「青の炎」は決して完全なるフィクションではなく、限りなくノンフィクションに近いフィクションだと僕は思った。

この本が書かれたのは先に書いた通り1999年。今から20年前。

その頃はまだスマホもなくて携帯電話にカメラ機能がついたりメールができるようになった頃で、今ほど家族内での虐待や学校のいじめもニュースで取り上げられていない時代だ。

そんな時代にこんな作品が世に出されたのは衝撃的だっただろうなあ。

「青の炎」はミステリーの形式では倒叙ミステリーと言って、最初から犯人や犯行の様子が明かされていて、事件解決に向かって進んでいくという普通のミステリーとは異なるプロットが特徴的だ。

ドラマでは「古畑任三郎」、小説では東野圭吾の「容疑者Xの献身」や西尾維新の「掟上今日子の挑戦状」とかが有名どころ。

倒叙ミステリーは犯人の内面が細かく描かれるという特徴があって、秀一の完全犯罪を計画する最中の迷いや恐れ、そしてそれを実行したあとの心情まで読者に痛いほど伝わってくる。

殺した動機も経緯も違うけれど、この前レビューした「悪と仮面のルール」にも通じるところがあるなと思った。

殺人は法の前では絶対的な悪だけど、自分や家族を守るために仕方なく犯した殺人は本当に悪って言えるのかなって考えさせられるね。

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まとめ

家族を守るためにだけに計画した秀一の切なく悲しい完全犯罪の結末はどうなってしまうのか、とくに物語後半は胸を締め付けられるような展開が次々と待っている。

犯人の心情を中心に描かれる倒叙ミステリーは、純文学の本を読んだ時のように人の心の奥底を知ることができる。

青春時代の爽やかさと殺人という闇が混在した「青の炎」は他の作品にはない後味を残してくれるだろう。

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